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【AI予測活用レポート】AIを活用した予測業務の容易化、高精度化(Ⅱ)~中堅中小企業におけるAI予測の活用~

AI予測活用レポート お知らせ

津田 英隆
1977年 名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻修士課程修了、同年富士通(株)入社。
人工衛星追跡管制システム等の開発に従事。1983年~1986年、現在の国立研究開発法人情報通信研究機構に出向。その後、半導体設計用CADシステムの開発、統計学を応用した歩留まり解析手法、システムの開発に従事。退職後は、国立研究開発法人科学技術振興機構で情報分析、情報通信研究機構で知財活用を担当。現在は、データ分析に関連した企業支援を行っている。博士(情報科学)。

近藤洋司
1978年 早稲田大学理工学部応用物理学科卒業、同年富士通㈱入社。
主に金融機関のシステムエンジニア、プロジェクトマネージャー、コンサルタントを担当。システム本部金融デリバリー統括部長、富士通総研金融コンサルティング事業部長に従事。
2010年 ゆうちょ銀行へ転籍し、システム開発部長に従事。
2020年 ゆうちょ銀行退職後、㈱シルバーウエア代表取締役

1. ICTの適用分野としてのAI予測業務

1. 1 AIの技術領域とアプリケーション

 AIは囲碁、将棋の名人に勝利するほど進歩し、また自動運転や人物自動判定等が身近にも見られるようになってきている。図1のように、AIの技術領域とビジネス適用のアプリケーションには多くの分野があるが、AIを活用しているのは多くの場合大企業である。これは、AIを業務に適用するには、ハードウェア/ソフトウェアの開発に多大の費用と長い開発期間が必要となるとともに、高度な知識を有する人材が不可欠とされてきたからである。

 図1の右側の画像認識・合成は、ディープラーニングにより一気に発展した分野であり、自動運転、がん診断、自然言語処理等で多くの新しい価値を生み出している。実現には特殊な技術、大容量のデータ処理技術と多くの投資を必要となることから、大企業でしか適用することができない。一方、左側の数値予測の分野は、ディープラーニング以前から、大企業において大きな投資が行われ、例えば銀行営業店の来店客数、店内の事務処理時間などのアルゴリズムを考案してプログラム化し、シミュレーションで最適化予測などが行われてきた。そして、更にAIを組み込むことによって精度を上げている。このように、AIを活用するにあたっては、予算や人材の点から中堅中小企業では手が出せていなかったのが実情である。

 AIのビジネス適用では、特に過去の状況から将来を予測するAI予測モデルが効果も大きく、注目されてきた。そして、図1の需要予測、顧客判定等に具体的に適用されている。このような状況において、最近ではAIを活用して業務に有効な予測を行うことのできる低価格かつ短期間でシステムを構築可能な中堅中小企業向けAI予測プラットフォーム(以下、「AI予測キット」と記す)が開発、発売されている。この結果、現在では、AI予測を活用するためのハードルが大きく下がり、業務経験を適切なデータに変換、表現することさえ行えば、業務に使う上で十分な精度を持った予測モデルを容易に作成、活用できる。特に、中堅中小企業においては、AI予測キットを使い、比較的小規模なデータにより、特殊分野はもとより需要予測をはじめとする汎用分野での業務予測が可能になるので、AI予測は攻めのICT投資として優先すべき分野であると言える。また、大企業においても部門ごとに多くの予測業務があり、当然そこでも活用できる。

図1 AIの技術領域とアプリケーション

1.2 容易に活用できるAI予測キット

 1章では、まずAIを活用した予測モデルとその活用、中堅中小企業におけるAIへの取り組み状況、大企業向けとは異なる中堅中小企業向けのAI予測キットについて記した。

 そこで2章、3章では、中堅中小企業がAIを活用できるようになった背景や環境変化について概説した後、本稿の続編である(Ⅲ)ではAI予測キットについて記す。さらに、(Ⅳ)ではAI予測キットを活用して、業務改善を容易に行えることを示す。事例として、ネット上からダウンロードした実データを使い、AI予測キットの一つである“Forecasting Experience”:FE(*1)とExcelの重回帰分析による予測モデルを取り上げ、それらの作成、検証を行う具体的な手順とその結果を示し、それぞれを比較している。そして、(Ⅲ)、(Ⅳ)に示す具体的手順で実行すれば、AI予測キットFEが容易に業務に適用でき、ビジネス改善に有効であることを実証できた結果を述べる。すなわち、大企業が多くの経営資源を投入してきた予測業務を、中堅中小企業においてもAI予測モデルを活用することにより行えるようになってきていることを示す。

2. 中堅中小企業がAIを活用できるようになった背景

2.1 AI の定義と注目される理由

 AI(人工知能)とは、『コンピューターで、記憶・推論・判断・学習など、人間の知的機能を代行できるようにモデル化されたソフトウエア・システム』(デジタル大辞泉)である。図2のように多種大量のデータを入力し、大規模・複雑な演算処理を行い、その結果として多種大量の情報を出力する。

図2 AIの処理

 従来は、AI導入に必要な知見、期間、費用が大で導入への障壁となっていたが、現在では導入が容易になってきた。このようなAIの活用によって、これまで人間が経験や勘に基づいて行ってきたような知的活動(認識、理解、判断、創作等)を代替・補完・強化しうるような、「最適解の予測」(例:個別ニーズへのカスタマイズ・レコメンド、経営資源の最適配分、需給マッチング等)が実現できる (*2) 。これらの視点は、ビジネス推進に必要なこととして従来から指摘されており、ビジネスの世界でAI が注目を集める理由の一つである

2.2 予測モデル

2.2.1 予測モデルの作成とその活用

図3 予測モデルの作成とその活用

 予測モデルは、収集した多種大量のデータ中に潜む特徴やパターンを見つけ出し、それらを使って将来を予測する仕組みをコンピューター上で構築したものである。図3に示すように社内データ、社外データなど様々なデータを統合した多種大量の過去データ、一般には学習データといわれるデータを作る。この学習データをコンピューターに入力し、学習すなわちデータ中に潜む特徴やパターンを抽出する作業を行わせ、それを予測モデルとする。次に、予測モデルの精度が実用的であると判断できれば、将来データを入力してビジネス状況の予測結果を得て、業務で活用する。

 したがって、予測モデルを活用することでコンピューターの計算力を利用して、人間が認知、判断できる以上の情報を容易に得ることができるので、予測モデルは企業にとっては非常に価値が高く、有効なものとなる。従来の単純集計と異なり、機械学習を用いることで複雑で膨大なデータから、高精度で将来の状況を予測し優先順位付け(=スコアリング)をすることも可能である。予測モデルはさまざまな業界でいろいろな業務で使われている。主な適用分野とその業務を表1に示す。

表1 予測モデルの適用分野と業務

2.2.2 予測モデルの活用事例

(1) マーケティング
・課題
 購買の可能性がありそうな顧客に、年数回商品カタログを発送している。
 送付対象をより可能性が高い顧客に絞ることによって、経費を削減したい。
・解決策
 過去の顧客属性、購買履歴等から各顧客の特徴を分析の上、予測モデルを作成
 する。これを基に予測購買額、予測反応率、その他から商品カタログを発送す
 る顧客を決定する(図4)。

図4 予測モデルを使ったマーケティング

(2)電力需要予測
・課題
 電力需要は季節や気象状況が複雑に絡むことにより変動しやすいので、その変
 動に応じた発電計画が求められる。従来は経験や勘に頼って計画を策定してい
 るため当たり外れが大きいので、精度を高めたい。
・解決策
 過去の季節、気象データと電力消費量の関連を予測モデル化し、将来の季節、
 気象予報データを予測モデルに入力することによって該当日の電力需要を予測
 する。

2.3 中堅中小企業の状況

 2016年の経済センサス活動調査によると、個人事業主を含む中堅中小企業は企業数で全体の99.7%、従業員数で68.8%を占める。よって、日本経済の発展には中堅中小企業の活性化が重要である。中堅中小企業の大きな経営課題は人手不足/人材不足であり、小規模ほど深刻である(*3)。また、図5(*4)に示すように、大企業の労働生産性は高く、2008年のリーマンショックで一時低下したものの、これを脱却後は向上に転じている。これに対し、中堅中小企業の労働生産性は依然として低いだけでなく、20年近く横ばいである。また、労働生産性を向上させるのに必要なソフトウェア投資も低いまま(図6) (*5)である。そこで、AI特に予測モデルを活用した業務改善を図れば、中堅中小企業の活性化、労働生産性の向上が期待される。そのためのツールとして、1.1で記したようなAI予測キットが有望かつ有力であり、最近これを中堅中小企業が活用できる環境が整ってきていると言える。

図5 企業規模別従業員一人当たり付加価値額の推移
図6 ソフトウェア投資額・ソフトウェア投資比率の推移

2.4中堅中小企業でのAI予測モデル活用の課題

企業規模の大小にかかわらず、業務効率向上、コスト削減、新たな価値の創造等に向けて、AIの活用が検討されている。そのなかで、注目が大きいのはAI予測モデルであるが、中堅中小企業がAI、ビッグデータ、IoTを活用する際には、大企業とは異なり、図7のような課題(*6)がある。コスト面の課題もあるが、特にAIの技術を有する人材確保がより大きな課題である。
 中堅中小企業における課題をまとめると次のようになる。
①人材、知識、経験が不足
 AI予測モデル作成で使われている機械学習等の各種データ分析に関する技術を理解するには、統計学をはじめとする高い専門知識を有するデータサイエンティストが必須である。しかし、その採用や養成が容易でない。
②適用までに長期間が必要
 AIツールの検討、開発、導入、運用までに長期間を要する。
③必要コストが高い
 AI予測モデル作成のためのソフトウェア/サービスが非常に高価で、追加のICT投資が必要である。

図7 中堅中小企業がAI・ビッグデータ・IoTを活用する際の課題

3. 中堅中小企業を対象としたAI予測キット

3.1 中堅中小企業のAI活用の現状と期待

 中堅中小企業におけるIT活用の意識および導入に関するアンケート分析結果を図8(*7)、図9(*8)に示す。図8は、小規模事業者について、各種の経営課題を解決するためにITの活用が必要と考えている企業の割合と、ITを導入した企業の割合を示し、図9は中規模企業におけるそれを示す。ここで、小規模事業者および中規模企業は、中小企業基本法で定められる分類を指す。これらの結果から、中堅中小企業はその規模に関わらず、コスト削減・効率化(守りの投資)はもとより、高付加価値化(攻めの投資)をも目指していることが読み取れる。双方ともIT導入の必要性を認識しているものの、特に小規模事業者ではITの導入があまり進んでいない。

 中堅中小企業の多くはAI、IoT、ビッグデータ、RPA等のICTのキーワードの認知率は高いが、その活用率は低い(図10)(*9)。特に、AIについては両者の開きが顕著で、認識率は95.1%と最高であるにもかかわらず、その活用率はわずか1.2%にとどまっている。

 経営者の高齢化、人材採用難等に悩む中堅中小企業においてこそAI予測モデル活用の効果が期待できる。在庫管理や受発注の最適化、顧客への効率的な情報発信や提案など、人では高精度、効率的な対応が困難な業務に活用することで、新たなビジネスチャンスが生まれ得る。今後、労働人口の減少が進むことからも、事業規模に関わらず、AI導入を進めざるを得ないであろう。

図8. ITの活用が必要と考えている企業の割合とITを導入した企業の割合(小規模事業者)
図9. ITの活用が必要と考えている企業の割合とITを導入した企業の割合(中規模企業)
図10 ICTのキーワードの認知率と活用率

3.2中堅中小企業に有利な環境変化

 最近のICTの進歩が、中堅中小企業がAIを導入しやすい状況をもたらした。すなわち、ハードウェア/ソフトウェアの低価格化、アルゴリズムの発達、多種大量データの収集/ハンドリングの容易化、さらにネットワークの発達でクラウドが普及し、費用をあまりかけないスモールスタートが可能になった。また、かつてはブームになっているだけで現実社会の課題を解くことはできないとされてきたAIが、ゲーム等の身近なものからビジネスにまで活用されている事実が広く認知されるようになり、AIプロジェクト開始の経営層への説得が容易になった。

 さらに、低価格で構築できるクラウド環境下で、データサイエンティストの知識・能力に相当する機能を有するツールとして、AutoML(Automated Machine Learning:自動化された機械学習)が広まってきた。これを使えば、前処理からAI予測モデルの精度評価までの処理を自動化でき、AIに関する詳細な知識が少なくても、システム開発とAI予測モデル作成を容易に、かつ短期間で行うことができる。

参考文献

(*1) https://forecasting-experience.idrasys.co.jp/ (2021.9.8)
(*2) 中小企業のAI・データ活用について (スマートSME研究会 討議用資料)令和元年6月26日
(*3) 中小企業白書2018 p118
(*4) 中小企業白書2019 p58
(*5) 中小企業白書2019 p14
(*6) 中小企業のAI・データ活用について(スマートSME研究会 討議用資料)令和元年6月26日
(*7) 中小企業白書2013 第4章 第2節
(*8) 中小企業白書2013 第4章 第2節
(*9) 中小企業のAI・データ活用について(スマートSME研究会 討議用資料)令和元年6月26日

Excelは、米国Microsoft Corporation社の登録商標です。

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