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【AI予測活用レポート】AIを活用した予測業務の容易化、高精度化(Ⅰ)~中堅中小企業におけるAI予測の活用~

AI予測活用レポート お知らせ

要旨

 現在は、第3次AIブームといわれ、AI(人工知能)が将棋や囲碁の名人に勝利し、また自動運転や人物判定等が身近でも見られるようになってきている。従来、AIのビジネスへの適用には高度な知識を有する人材、導入に必要な期間、多くの費用が必要とされるなど、多くの障壁があることから大企業での適用に限られるとされてきた。しかし、最近ではAIに関する知識、経験が少なくても低コスト、短期間でシステムを完成させ、活用するための中堅中小企業向けAI製品が発売されている。AIの中でも、特にビジネスに有用な分野は、過去の状況を分析して将来の状況を予測するAI予測モデルである。
 本稿では、大企業ではなく、AI、IoT、ビッグデータなどで代表される今日の高度情報通信社会において、経営資源などの点からこの趨勢に取り残されがちな中堅中小企業に視点を置き、AI予測モデルとその活用の課題と対策、および中堅中小企業向けのAI予測ツールによる実証結果を示す。最初に(Ⅰ)では、日本におけるICTへの投資状況と予測業務、および最近の変化について示す。次に(Ⅱ)では、ICTの適用分野におけるAI予測の位置づけとAI予測への期待の背景、および中堅中小企業にとっての環境変化と中堅中小企業に特化したAI予測ツールを示す。(Ⅲ)では、中堅中小企業におけるAI活用、また大企業向けとは異なる中堅中小企業向けに特化したAI予測ツールの特長と使用手順を記す。最後に(Ⅳ)では、実際に中堅中小企業向けAI製品を使ってネット上の実データに基づいて作成したAI予測モデルが、従来手法によるものに比べて、高精度かつ容易に得られることを示す。
 これらの結果から、中堅中小企業では必要性を意識しつつも経営資源投入の制約から本格的には実行できなかった業務予測の分野において、AIを活用した予測モデルが有効であり、有力なツールであることを実証できた。

                   

津田 英隆
1977年 名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻修士課程修了、同年富士通(株)入社。
人工衛星追跡管制システム等の開発に従事。1983年~1986年、現在の国立研究開発法人情報通信研究機構に出向。その後、半導体設計用CADシステムの開発、統計学を応用した歩留まり解析手法、システムの開発に従事。退職後は、国立研究開発法人科学技術振興機構で情報分析、情報通信研究機構で知財活用を担当。現在は、データ分析に関連した企業支援を行っている。博士(情報科学)。

近藤洋司
1978年 早稲田大学理工学部応用物理学科卒業、同年富士通㈱入社。
主に金融機関のシステムエンジニア、プロジェクトマネージャー、コンサルタントを担当。システム本部金融デリバリー統括部長、富士通総研金融コンサルティング事業部長に従事。
2010年 ゆうちょ銀行へ転籍し、システム開発部長に従事。
2020年 ゆうちょ銀行退職後、㈱シルバーウエア代表取締役

1: はじめに

 AI、IoT、ビッグデータなどで代表される今日の高度情報通信社会において、経営資源などの点からこの趨勢に取り残されがちな中堅中小企業に視点を置き、そのAI活用について記す。最初に、ICTへの投資状況と課題の概要、および企業の業績に大きな影響を及ぼす予測業務の分野に焦点を当て説明する。そして、予測業務におけるAIの重要性、有用性について概説する。

 次に、AIへの期待の背景および活用法について述べ、引き続いて中堅中小企業を対象とするAIシステム、適用事例に基づく実証検討とその結果について説明する。

2:日本のICT投資および予測業務の現状

2_1 日本のICT投資の特徴と課題

 図1(*1)は、1980年から40年間の各国GDPの推移である。特徴の1つは中国の顕著な高成長で、40年で数十倍となっている。もう1つは日本で、前半は成長しているものの後半はほとんど成長がなく、ここ数年は衰退ともいえる。国は、「産業・企業レベルでICTの利活用を促進させることは、我が国の成長や生産性向上を達成していく上で非常に重要である。」(*2)という認識を持っている。では、日本のGDPだけが横這いとなったのはICT投資が他国に劣後したことが原因であろうか。

 日米のICT投資のGDP比率(図2(*3)) は、日米で殆ど同じで日本の方が高いくらいであり、日本のICT投資は決して少なくないことがわかる。図3(*4)は、2013年のJEITA(電子情報技術産業協会)による日米のICT投資の使途分析で、投資の中身に大きな差異があり、それぞれ米国は攻めの投資、日本は守りの投資が主である。具体的には、米国で最も多いのがITによる製品/サービス開発強化であり、Google,Facebookが代表である。2番目は、ITを活用したビジネスモデル変革であり、代表はAmazonである。3番目は、新たな技術/製品/サービス利用であり、Appleが代表である。また、中国には、GAFAに対応する中国大手IT企業4強BATHがある。一方、日本で突出して多いのがITによる業務効率化/コスト削減である。個別企業の業務効率化は正しいことであるが、日本の全ての企業が業務、効率化に集中することは日本経済にとって好ましくなく、高いGDP成長は期待できない。すなわち、日本のICT投資は高成長が期待できる分野にあまり行われていない。

 図4(*5)は、2013年のJEITAによる日米のICT投資への意識分析で、米国の殆どの経営者はICT投資がきわめて重要だと考えているのに対して、日本の経営者はさほど重要と考えていない。図5(*6、*7)は、経済産業省、IPA(情報処理推進機構)によるDXの定義である。図3に示したICT投資の使途分析で、米国企業が行ったことはDX化そのもので、米国では約20年前から取組んでいる。単なる業務効率化はDX化ではない。産業構造までをも変えようとする発展的目的を包含するものがDX化であり、経済産業省の意気込みを表したものともいえる。

図1 名目GDP(為替レート(米ドル換算))の上位5カ国

図2 日米のICT投資のGDP(実質)比率

図3 日米のICT投資の使途分析

図4 ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析
図5 経済産業省、IPAによるDXの定義

 DX化を実現するための主なデジタル技術をあげれば、人によってかなり異なる技術が挙がるが、AI、IoT、ビッグデータ等はほぼ間違いなく挙がると想定される。このうち、AIが漏れることは考えられず、AIはDXの筆頭技術といえる。AIには様々なものがあり、本稿ではAIのうち、AI予測をとり上げる。AI予測とは、人間の「経験」や「勘」に頼る割合を減らし、AIを用いてデータから未来の物事の発生や未来の値の予測をするもので、ビジネスには非常に重要である。図5に示す経済産業省、IPAの定義によるDX化を具現化する一つといえる。また、AI予測は後述するように、最近では中堅中小企業でも比較的容易に実現できる環境が整備されてきたので、日本の成長に大きく寄与する攻めのICT投資分野として、社会全体に活用を広めていくことが課題である。

2_2 大企業と中堅中小企業における予測業務

 企業規模の大小に関わらず、欠かすことの出来ない業務の一つが予測業務であり、精度よく、かつ迅速に予測ができなければ機会損失、廃棄損失などが生じる。このため、特にスケールメリットの活用が求められる大企業では、予測システムに多大な投資をし、長期間かけて構築している。このようなシステムは、多種大量のデータを活用し、最適な予測値を算出するために、複数の予測方式・モデルを採用し、予測するモデルを自動的に変更するなどの機能を有して、複雑かつ大規模である。そのため、汎用パッケージのみで構築することは困難で、個別のカスタマイズが必要となり、さらに頻繁にシステム更新が必要になる。大企業はスケールメリットを生かす必要がありまた投資体力があるので、さらに精度向上、効率化を目指してAIを導入している場合も多く、またAIの導入によりさらに高精度化し、システムの適用範囲が広がっている。

 一方、中堅中小企業ではスケールメリットは小さく、また大きな投資にはリスクが伴うため、大企業とは異なった対策が必要である。例えば、短期間で構築できる比較的小規模なシステムで、かつ容易に使える環境が求められる。

2_3 予測業務とデータ分析の変遷

 業務を改善するためには、業務に精通した担当者が蓄積した経験を基に将来の状況を予測することが行われている。いわゆる『勘ピュータ』の活用による予測である。例えば、近隣で開催されるイベント、気象、暦等により、人出、売上高等を予測し、ある程度の精度で結果が得られることも多い。しかし、これは非常に属人的であり、定量的に示すことはむずかしい。そこで、人への依存度を下げ、定量的に把握するために、収集したデータからその特徴やパターンを見出し、業務改善に活用することが以前から行われており、そのためにはデータ分析が重要である。従来のデータ分析手法は、業務知識を有する担当者が、業務内容の状況分析を基にして想定した仮説を表やグラフにより可視化して妥当性を確認するいわゆる仮説検証型手法である。この手法は今も有効であり、Excelをはじめとする汎用統計解析ツールで行われる場合が多い。

 しかし、ビジネス状況がより複雑化したこと、IoTの時代になり扱うデータの種類、量が増大したこと等により、担当者が経験を基に知識を蓄積して仮説をたてることが困難になってきた。そこで、従来の仮説検証型の分析手法から、機械学習のように多種大量のデータ中に潜む特徴やパターンを速やかに抽出して、業務改善につなげる仮説発見型の分析手法が採用されるようになり、より多くのかつ正確な知見が得られるようになった。しかし、分析者には採用する統計手法の技術、ノウハウの他に、データクレンジング等の知識も求められる。そこで、データ分析の技術、ノウハウへの依存を小さくし、かつ自動的にデータ分析を行うAIが注目されるようになってきた。近年のハードウェア/ソフトウェアの低価格化、ネットワークの普及、さらにはアルゴリズムの発展が、AIの実用化をもたらした。

参考文献
(*1) IMF “World Economic Outlook Database April2021” (2021年4月12日閲覧)よりニッセイ基礎研究所作成
(*2) 「ICTによる経済成長加速に向けた課題と解決方法に関する調査研究 報告書 」2014年3月 総務省情報通信国際戦略局情報通信経済室
(*3) 平成30年版情報通信白書(PDF版) 第1部 第3節
(*4) JEITA、IDC Japan ㈱「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査結果(2013年10月)
(*5) JEITA プレスリリース 平成25年10月9日
(*6) 「「DX 推進指標」とそのガイダンス」 令和元年 7 月 経済産業省
(*7) IPA これからの人材のスキル変革を考える ~DX時代を迎えて~ 2019年7月4日

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